”ボタニカルアート”をご存知ですか?「植物の肖像画」といわれ、とても繊細に描いた植物画のことです。この清楚な植物画に魅せられて20余年、昨年9月に画集を刊行されたという松本千鶴さんにお話を伺ってきました。
南向きの大きな窓から明るい日差しが差し込み、ベランダには草花がいっぱい。室内には、ピアノ曲が静かに流れ、なんともゆったりした雰囲気。ここが松本さんの自宅兼アトリエ・教室です。平塚市紅谷町にあります。
学生時代、東京芸大の芸術学科で学んでいた彼女は、理論を中心に学ぶ学部に満足していませんでした。卒業後は、藤沢の中学校で美術教師として在任され、理科(植物)の教師をしていたご主人と出会います。そのご主人との出会いこそが、ボタニカルアートと松本さんを繋いだのです。ボタニカルアートのすばらしさを知り、「私の求めていたものは、これだ!」とどんどん引き込まれていったそうです。
さて、ボタニカルアートの魅力とはいったい何なのでしょう?歴史は、中世ヨーロッパにさかのぼり、修道院で薬草栽培が行われた時代です。その品種確認のために克明な植物画が求められたのが始まりだといわれています。誰でも気軽に始められるのが特徴で、道具や絵具がコンパクトで、描くのに場所もとらずテーブルの片隅で間に合ってしまうのだとか。そしてこの絵の最大の魅力は、画材が身近に無数にあること。いつも見ている風景の中から見つけた小さな植物を繊細に描くことでいろいろな発見が生まれ、視野が広がるそんな感動が魅力につながっているのでしょう。ボタニカルアートと出会って20余年、人生には、悲しい時、つらい時もありましたが、絵がそれらを乗り越えさせてくれたとおっしゃいます。その集大成として、昨年9月に画集を刊行されました。ところどころにエッセイ風の文章も加えられており、彼女のやさしい人柄がにじみ出ている画集です。そして、平塚(自宅)、大磯、藤沢、戸塚の4つの教室で指導されています。
「犬の散歩の時、今までとは違って、身の回りにこんなにたくさんの美しい草花があったのだと気づくようになりました」「子供に対する見方が変わり、小言も少なくなりました」そんな生徒さんたちの声がとても嬉しいそうです。「他の人と競うことなく、それぞれのペースで植物の奥深さを実感してほしい」と松本さん。好きな言葉は、英国のJ.ラスキンの「葉っぱ一枚を描く者は、世界を描く」だそうです。
「テーブルの上の花を描いていると、つぼみが開いてくることがあります。そんな時、植物の世界の奥深い素晴らしさを感じます。生き生きした植物の美しさはもちろんのこと、枯れた草花にも独特の美しさがあります。皆さんにも身の回りの何気ない自然の中に、豊かな美を感じてほしいです」と語ってくれた彼女の言葉に、清清しい気持ちで取材先を後にしました。(記/山口)
取材協力/植物画家 松本千鶴
0463-24-7807